ミッコ・H・ハーポヤの15周年記念サウンドスケープ展「ヘルシンキの道」の開催に先立ち2025年の3月31日に開催したプレスイベントの模様について、ジャーナリストの藤田朋美さんからのレポートをお届けします。
フィンランド人アーティストのミッコ・H・ハーポヤ(Mikko H. Haapoja)が3月31日、東京・港区のフィンランドセンターで、15周年記念展となるサウンドスケープ・アートプロジェクト「Helsingin reitit – The Routes of Helsinki(邦題:ヘルシンキの道)」のプレスイベントを開いた。
フィンランドの首都・ヘルシンキ出身のミュージシャンで音楽プロデューサーであるミッコ・H・ハーポヤ(Mikko H. Haapoja)。フィンランドのカレリア地方で弾かれている伝統楽器のヨウヒッコを軸に、歌、カンテレ、電子ビート、そしてヘルシンキや東京、イスタンブール、ニューヨーク、バマコといった都市や自然の音風景(サウンドスケープ)を多層的に組み合わせた、唯一無二のパフォーマンスを披露する。ハーポヤは昨年、埼玉・飯能 メッツァビレッジの開業6周年記念ライブを開催するなど、日本ともゆかりの深いアーティストの一人として知られる。

15周年記念サウンドスケープ・アート展「ヘルシンキの道」
2025年4月3日〜13日に東京・谷中 Gallery Tenで、4月19日〜27日に埼玉・飯能 メッツァビレッジで開催される15周年記念展「ヘルシンキの道」は、ハーポヤが2010年に始めた長期的なサウンドスケープ・プロジェクト。フィンランドの首都・ヘルシンキの都市の音像を捉え、オーディオビジュアル・インスタレーションや学際的なアート・パフォーマンスとして創作したもの。
ハーポヤは「東京と比べるとヘルシンキは小さい町ですが、この15年はどんどん都市が大きくなっていると音からも感じることができます。今回の私の作品では、10年、15年前の割と近い歴史の音と、今年収録した現代の音を組み合わせています。ヘルシンキ独特の音といえば、トラムの音やカモメの鳴き声があり、15年ずっと捉えることができました。それ以外にも変化している音はもちろんあります」と紹介する。
展示作品は4つに分けられ、メイン展示「Kaupungin iho – The Skin of the City」は、ヘルシンキを草の根レベルから観察し、没入感のあるサウンドトラックを映像と共に制作した3D音響作品。2015年〜2025年の間に撮影された映像を使用し、四季折々の街の変化を捉えた作品となっている。
ハーポヤは「この展示では、フィンランドのスピーカーメーカーのジェネリックからスピーカーを提供いただき、サラウンドシステムを組むことができました。谷中 Gallery Tenの会場は少し狭いので、メッツァビレッジにも皆さん足を運んでいただけると、その完成形を楽しんでいただけます」と紹介した。

2つ目の展示「Ensimmäinen reitti – The First Route」は、2017年6月に撮影されたポエトリー・ビデオ。ハーポヤをはじめ、フィンランド人詩人でスポークン・ワード・アーティストのイルマリ、アマンダ・カウアンネによるヘルシンキのアーバン・サウンドを取り上げている。
ハーポヤは「この映像は『ヘルシンキの道』と私のソロプロジェクトの両方から抜粋したものです。コンテンポラリーサーカスアーティストが一緒にこの作品作りに関わっています。フィンランドの都市の情景を歌っている詩人であるイルマリの詩とともにお届けしています」と説明する。
また、ハーポヤは今後の展望について「今回、私が1人でツアーしていますが、普段は空中アクロバットをやっているアーティストたちと一緒に公演をしているので、いつか彼らも日本に連れてくることができたら」と明かしていた。
その他にも、ヘルシンキの森の自然の音を収録したサウンドスケープ作品『keskusmetsa – The Central Forest(中央の森)』を展示する。
ハーポヤは「この作品は、新型コロナウイルスの流行期に収録しました。ヘルシンキは都市の中では緑が多い町だと思いますが、それでも非常に交通量が多く、空の便の音が入ってしまいますが、コロナ禍だと全然違う、深い都市の中にある自然の音を捉えることができました。エンミ・クイッティネンさんの哀歌も含まれています」と紹介した。
さらに、ハーポヤのサウンドスケープとキラ・レスキネンによる写真アートブックをコラージュした「Katve – Between/Within」も展示され、多様な作品を通じてサウンドスケープ・アートを存分に体験することができる。
伝統楽器・ヨウヒッコを使った生演奏を披露

ハーパヤがソロプロジェクトで主に使用しているのは、フィンランドの伝統楽器のヨウヒッコ。サヴォ・カレリア地方やスウェーデンなどで弾かれている弦楽器となる。弦や弓は馬のしっぽの毛で作られ、温度に繊細な点が特徴だ。
ハーパヤはヨウヒッコを使った生演奏を披露。フィンランド民謡の『イエヴァン・ポルカ』などの楽曲を演奏し、重厚感がありながらも自然の音風景を感じられるヨウヒッコ独特の音色を届けた。

サウンドスケープの録音方法を紹介
ハーポヤは、普段どのようにサウンドスケープの音を収録しているのか、その録音方法を紹介。着用するヘッドフォンの中に小さなマイクを仕込み、3D状に音を捉えているという。
また、「アンビソニックス」という立体音響システムを使用して、頭部の動きに追従し、向いている方向の音を立体的に録音。サウンドスケープ・アート作品「ヘルシンキの道」では、「ハイドロフォン」というシステムも使用し、水面下の音も捉えており、水の中の音風景も楽しむことができるという。

GPSを使用したサウンドウォーク・イベント
「TOKYO SOUND WALK」
なお、展覧会『ヘルシンキの道』の他に15周年企画として、4月6日に公開した新作『Luotisuora – Beeline(2015/2025)』を体験できるサウンドウォーク・イベントを開催する。
『Beeline』は、ヘルシンキで開催された展覧会「Helsinki Bites」のために制作された14分のサウンドスケープ作品から生まれたモバイル・サウンドアート作品。GPS駆動のモバイルウェブアプリを用いて、位置情報に応じて作品を体験できる。
4月6日から東京の茅場町付近から大手門の間のルートで、同作品を聴くことができ、同日には、ハーポヤと一緒に参加者が1.5時間ほど街中を歩き、都市空間の音を聴くサウンドウォーク・イベントも開催される。都心の音やヘルシンキのサウンドスケープを体感し、ヘルシンキと2015年の夏への「音のポータル」を作り出すという。
同作品は、ヘルシンキ・ユニオン通り〜シルタサーリ通りの建築軸と、2025年夏の都市生活をテーマにしている。東京というにぎやかな大都会でヘルシンキの街の音を聴くと人々はどう感じるのか、実験的なイベントとなる。
新作『Helsingin reitit – Helsinki Soundtrack』を各会場で発売

プロジェクト15周年を記念して発売された新作のコンピレーション・アルバム『Helsingin reitit – Helsinki Soundtrack』をはじめ、ハーポヤ自身および共同プロジェクト「haapoja & illmari」の作品、またフィンランドの伝統音楽のレコード・CDが、各会場のPOP-UP販売コーナーで発売される。
また、本展覧会での来日に伴い、ハーポヤはコンサートツアーを行う。飯能・メッツァビレッジやJuhla Tokyoで公演を行い、大阪万博の北欧パビリオンにも出演が決定している。
プレスイベントの最後に、ハーポヤは「自分が都市の一部であるように感じられるのが、サウンドスケープの魅力。都市の音や自然の音に関心がある人、フィンランドの民族音楽に関心のある人に、ぜひ展覧会やコンサートに足を運んでいただきたい。新しい方々にも、そして古くからの友人たちにもお目にかかれたら非常にうれしいです。私の公演では、瞑想のようなことをしたくなるような方や、何時間も滞在する方もいらっしゃるので、そういう方も歓迎しています」とPRした。
文・写真:藤田朋美
ヘルシンキの道 Helsingin reitit
The Routes of Helsinki 2010-2025
2025年4月3日(木)~13日(日)
東京・谷中 Gallery TEN
※4月7日(月)は休館
2025年4月19日(土)~27日(日)
埼玉・飯能 メッツァビレッジ内 Craft bibliotek